「上場はサービスの信頼性の醸成にもつながる」と話す鈴木歩社長。
撮影:横山耕太郎
資料の作成から、動画の編集、似顔絵から占いまで約40万件のサービスがずらりと並ぶ。
197万人(2020年11月時点)が登録するスキルシェアサービス「ココナラ」が2021年3月19日、東証マザーズに上場する。
大手企業でも副業を解禁する企業が増えたことや、コロナ禍で在宅勤務が増えたことなどから、すきま時間を活用したスキルシェアサービスが注目されている。
ココナラが他のサービスと異なるのは、ビジネスでの利用に限らず、広い分野のスキルのマッチングができる点だ。
「副業の推進や、働き方改革を目標にしているわけではない。稼ぎたい人も、そうでない人でも、あらゆるサービスを提供しているプラットフォームでありたい」
2020年9月、創業社長・南章行氏に代わり、社長に就任した鈴木歩氏(38)はそう話す。
成長を続けるスキルシェアの市場で、独自の存在感を示すココナラ。「サービス版のAmazonを目指す」と語る鈴木氏に、上場後の戦略を聞いた。
500円のスキル売買から事業スタート
ココナラでは200のスキルに分類されている。
提供:ココナラ
ココナラは2012年1月に創業(当時の社名は「ウェルセルフ」)。2012年7月にローンチした当時は、ワンコイン500円でスキルを売買するプラットフォームとしてスタートした。
スキルを提供する側が、値段を設定。利用者側は、実績や値段を見比べてサービスを購入する仕組みだ。
サービスのジャンルは多岐にわたり、Webサイト制作、デザイン、記事の作成、資料・企画書の作成などビジネスに関するものから、ダイエットサポートや転職・キャリア相談、タロット占いまで200カテゴリー、40万件を超えるサービスが出品されている。
「例えば新店舗を作るとき、これまでは別々の業者に頼んでいた。インテリアはどうするか? メニュー表をどうするか? 通販をやるときはサイトをどう作るか? ロゴやチラシのデザインは? こうした相談が全部ココナラでできる。
何か困ったら、まずはココナラに来て検索してもらえるようなプラットフォームになりたい。目指すは、サービス版のAmazonです」
コロナで利用が急増
コロナ禍で登録者・利用数が共に増加した。
提供:ココナラ
ココナラはサービス開始以降、順調に会員登録数(出品側と購入側の両方を含む)を増やし、2017年の60万人が、2019年には133万人に増えた。
さらにコロナ禍による追い風を受け、2020年には197万人に急伸した。
「1回目の緊急事態宣言が出された2020年4月には、まず出品する登録者が増え、5月以降は購入側も増えた。一過性の増加ではないので、オンラインマッチングを初めて利用した人にも評価されている」
特に売買が盛んになっているのが「制作・ビジネス」の分野という。具体的には、データ入力やパワーポイントのスライド作成などのサポート業務のほか、ロゴデザインや広告用の動画の制作、Webサイト制作など高単価なサービスでも利用が増えた。
ビジネス分野が好調ではあるものの、そこに特化する戦略は取らない。
「ココナラは『何でもそろう場』でないといけない。だから占いや似顔絵など、生活寄りのサービスも伸びていることにも注目してほしい。『何でもそろう』と言うと一見、戦略がないように思われるが、何でもあることが一番の戦略だと思っている」
しのぎ削るスキルシェア市場
スキルシェアは競合サービスも多い。
提供:ココナラ
200ものカテゴリーを持つ「雑多さ」は、他のサービスとの差別化にもなっている。
スキルシェアのサービスでは、クラウドワークスやランサーズなどすでに上場している競合サービスがある。
両社とも、フリーランスが単発の仕事を得るためのプラットフォームとしての色合いが強い。また2020年3月に上場したビザスクは、すきま時間を利用したコンサル事業が主力だ。
「ライバル視している企業はない。僕らのサービスは、オフラインの取引をオンラインで便利に置き換えることがコンセプト。すでにオンライン化が進んだ一部の市場でシェア争いをする発想はない」
鈴木氏が語るサービスの未来は野心的だ。
「なんでもそろうプラットフォームが1つだけあることが、ユーザーにとっては使いやすい。サービス版のAmazonになるために、将来的には1000万、2000万というユーザーに使ってもらいたい。そのイメージを持ちながら、逆算してサービス開発をしている」
今回の株式の上場で得られた資金は、エンジニアやデザイナーなどの人材獲得の費用や、広告費を含めたマーケティング費用に充て、利用者増加へさらなる攻勢をかける。
「労働力の搾取」への対策
一方で、スキルシェアには課題もある。UberEatsに代表されるような、自由な時間に働ける「ギグワーカー」の働き方が注目されているが、企業側にしてみれば、社員としての雇用義務を負わずに、労働者を安い労働力として使える構造がある。
ココナラの場合、スキルを出品する側が、値段を定める形をとってはいるものの、プラットフォーム上で高い値段が敬遠されれば、結果的に値段を低く抑えざるを得ない。
ココナラが対策として挙げるのは、最低価格の導入と、表示される順番を適切に調整することだ。
「サービスが適正価格で取引されることが大事だと思っている。そのため、カテゴリー単位で最低価格を導入しており、例えば占いは500円が最低価格だが、Webサイト制作は1万円から。パンフレットデザインは7000円からに設定している。スキル提供側が苦しまないように、世の中の流れをリサーチしながら段階的に引き上げてきた」
また、カテゴリー内で、どのサービスが上位に表示されるのかを、 並び替えるアルゴリズムを採用している。
「サービス提供者の実績、提供者が掲載している情報の量などを複合的に判断している。並びの順番は、固定されないように複雑なアルゴリズムを採用している。マッチングサイトとして、最低価格だけが上位に並ぶのは健全ではない。サステナブルなプラットフォームであることを意識している」
一方で、ココナラのサービスが特徴的なのは、単に副業として稼ぎたい人だけではなく、稼ぐ以外の価値を感じているサービス提供者もいる点だ。
「絵を描くのが昔から得意な人でも、趣味のままで終わる人が多い。それがココナラで初めて絵を買ってもらう経験ができれば、それが500円であっても嬉しい経験になる。
500円でいいと思う人もいれば、5000円、1万円での販売を目指すこともできるし、その経験をきっかけに独立する人もいる。稼ぎたい人でも、社会との接点として利用する人でもどちらでも応援したい」
リクルートから社員20人のベンチャーへ
2020年8月にオフィスを移転。壁には「One Team,for Misson」など掲げるVatue が書かれている。
撮影:横山耕太郎
鈴木氏は早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。2016年に、約10年働いたリクルートを去りココナラに入社した。
リクルートでは海外への経営企画を担当したが、現場との接点を求めて、当時まだ社員約20人のココナラに飛び込んだ。
「ベンチャーに行くことは、きちんと自分をプレゼンする力さえあればリスクは何もないと思っている。大きな裁量権を持って決断と実行を繰り返す、というとても貴重な経験を積める」
入社後1年ほどで、プロダクトの責任者や、マーケティングの責任者、事業戦略も任されてきた。
ココナラの創業社長だった南章行氏は、2020年9月に会長に就任。鈴木氏が新社長を任され、代表2名制に移行した。
新社長として上場後のかじ取りを任された形だが、気負いはない。
「これまでも事業戦略に関わる部分は私が意思決定してきたので、そこは社長になってもあまり変わらない。ただ上場は信頼感の醸成や、認知アップにつなげられる機会。
日本のオンラインマッチングの浸透はまだまだこれから。私がココナラに入るきっかけにもなったビジョン『一人ひとりが自分のストーリーを生きていく世の中を作る』のためにも、1人でも多くの人にサービスを届けたい」
(文・横山耕太郎)
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